目次
覚書とは?
契約業務の現場において覚書は、締結済の契約書の内容を補足したり、変更を加える際の書面となります。
締結済の契約書を「原契約」として、原契約への改定事項のみを簡潔にまとめる、いわば契約書の一つの形態です。
例えば、基本契約書に基づく取り引きにおいて具体的な内容を提示する場合、契約の有効期間の延長などの修正をする場合、取引条件を変更する場合など、様々な契約におけるビジネスシーンで活用されるのが覚書です。
覚書は、あくまで契約書の一つの形態となりますので、その表題(タイトル)のつけ方で、契約書と法的な効力に違いはありません。
契約書を訂正する方法は、訂正印や捨印による訂正の他に、契約書の再作成と、「覚書」の締結による訂正がございます。これらは、どの方法による訂正であっても同じ法的効力を持ちます。
契約書の再作成よりも、覚書の方が、変更するのみを簡潔にまとめる事ができますので、作成の過程や確認の過程において効率的であるともいえます。
また、混同しがちな文書に「念書」というのもございます。
次で、契約書や念書といった書面と、覚書の違いについて、詳しく見てみましょう。
覚書と契約書の違い
覚書も契約書の形態の一つですので、その果たす役割や法的効力の観点において違いはございません。
どちらの書類も、取引の内容を確認することができ、紛争やトラブルを防止し、トラブルが起こった際の証拠書類として法的効力を有します。
利用される場面やシーンが異なるというのが、契約書と覚書の違いといえます。
この点は後ほど、覚書を利用するシチュエーションとして詳しくご紹介いたします。
覚書と念書の違い
「念書」とは、当事者の一方から差し入れられる文書で、主に約束する内容を提示する際などに使われる文書です。
債権関係であれば、債務者がその債務内容を承認する念書を提示することで、債権の消滅時効を中段させる役割をもたせることもできます。
その他、雇用契約においていえば、欠勤や遅刻などを防止するための手段として、念書を用いることもございます。
このように「念書」は、双方ではなく、どちらか一方が差し出す書類であるという点が、覚書との大きな違いとなります。
覚書に法的効力はある?
覚書であっても、契約書であっても、その法的効力に違いはございません。
書類のタイトルではなく、内容が重要な役割であるからです。
当事者双方の意思表示の合致により契約は成立し、その定めによる権利と義務に契約当事者は拘束されます。
この権利と義務をまとめた書類が契約書であり、そのタイトルが覚書であったとしても法的効力に違いはなく、証拠書類としての有効性や法的効力は充分に認められます。
ですので、覚書、というと柔らかい言葉の印象がありますが、そのタイトルからして法的効力はない、と思わず、覚書を締結する場合でも、契約書と同等にしっかりと記載内容を確認し進める必要がございます。
(外部:参考資料)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=408AC0000000109
覚書を利用するシチュエーション
それでは覚書を利用するシチュエーションについて、いくつか事例をご紹介いたします。
ここでは、既に締結済の契約書を「原契約」として、覚書を利用する場合をご紹介します。
原契約に変更を行う場合
原契約の内容へ追加や修正を行う場合にも覚書は利用されます。
取引内容や条件の変更、そもそも原契約に誤りがあり訂正する場合、など、契約内容を事後的に変更するケースです。
例えば、不動産賃貸借契約であれば、賃料の変更の覚書などがイメージしやすいかと思います。
この場合であれば、「原契約に定める賃料を、○○年○○月○○日より、1カ月あたり○○○,○○○円とする。」といった条項を記載した覚書を作成します。
このように、条項の変更部分だけを提示し締結する事ができますので、契約書の再作成に比べて確認にかかる工数は削減することができます。
原契約の条件を決める場合
原契約の条件を事後にまとめる場合にも覚書は利用されます。
例えば、工事請負契約などで、実際の作業量の確認などの都合で、具体的な金額や条件を確定していない場合もございます。
こういった場合に、基本となる請負契約書を締結した後で、具体的な業務の範囲や工数、その金額を覚書で提示するといったケースです。
このような場合でも、取引条件の部分のみを具体的に提示することができますので、契約書と照らしやすく、また実際の業務の現場においても運用がしやすくなります。
覚書作成のメリット
以上のように、覚書は、契約に変更を行う際や、後から条件を明示する場合などにおいて、一から契約書を作り直さなくても良く、また取引を円滑に進める上でも大きなメリットがございます。
変更であれば修正を加えたり追加する条項のみをまとめ、条件を決めるのであれば確定していなかった取引条件についてをまとめるのみで、作成にかかる工数や確認の手間は大きく削減できる利点が覚書にはございます。
このようにビジネス現場を円滑に進めながらも、当事者間でトラブルが生じた場合には、その取引の証明する文書としても覚書は有効ですので、契約書同様、比較的作成されるケースは多い書類かと思います。
覚書の作成方法
それでは、覚書の作成方法について具体的に見ていきましょう。
定型的なフォーマットがあるわけではございませんが、基本的な書き方について記載すべき項目と内容について解説させていただきます。
■1. 表題
まずは契約書と同じく、タイトルにあたる表題を記載します。
単に「覚書」としても問題はございません。原契約に変更を加える覚書の際に、表題を「変更契約書」とする場合もございます。
■2. 前文
原契約など、関連する書類との関係性や契約当事者について明確にするのが前文です。
「株式会社○○と株式会社△△とは、○○年○○月○○日付で締結した、○○○契約書(以下「原契約」という。)について、次の通り覚書を締結する。
といったように、関係者と、「いつの」「どの」契約書に対しての覚書なのか、を明確に示します。
■3. 本文
覚書で重要な部分が本文です。
ここには、契約当事者の双方が合意した、変更内容や修正事項、取り決めた条件などを具体的に明記します。
原契約と照らしながら、その中における条項の一部なのかすべてなのか、どのように変わるのか、など内容をしっかりと確認しながら作成する必要がございます。
裁判所では証拠書類としても提出しますので、第三者が読んでもわかる言葉で、誰が読んでも齟齬がないように記載していくようにしましょう。
「第○条 原契約○○条に定める賃料を、○○年○○月○○日より、1カ月あたり○○○,○○○円とする。」といったように、原契約のどこを変更するのか、いつから変更するのか、どのように変更するのか、といった内容を記載します。
その他、原契約と変更のない部分もあるかと思います。
その場合は、「第○条 前条以外における事項においては、原契約のとおりとする。」など記載しておくと良いでしょう。
■4. 有効期限
原契約の条件を決める場合などは、その取引における有効期限があるかもしれません。その場合は、覚書に有効期限を明記しておくようにしましょう。
■5. 後文
覚書の作成数と所持数、締結方法、原本の保持などについて記載するのが後文です。
「本覚書の成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙各自、記名押印または署名捺印の上、各1通を保有する。」、電子契約によるものであれば、「本覚書の成立を証するため、本書の電磁的記録を作成し、甲および乙が合意の後、電子署名を施し、各自その電磁的記録を保管する。」というように書くと良いでしょう。
■6. 作成日及び当事者名
覚書を作成した日付と、当事者名について記載します。
作成日は一般的には締結日にあたる日付となります。当事者名は、「甲」「乙」など甲乙表記されることが多く、それぞれ署名捺印や記名押印を行います。
覚書の変更・修正方法
さて、覚書を作成した後に、追加の修正であったり変更が発生してしまった場合はどうすれば良いでしょうか。
この場合は、変更覚書に対しての覚書を新たに作成することで変更・修正することが可能となります。
繰り返しになりますが、覚書も一つの契約書の形態となりますので、当事者の一方による勝手な変更はできません。
事前に覚書の内容に変更を加えることへ、双方の合意がなされていることが前提です。
覚書を変更する変更覚書も、契約書を変更する覚書と同様で、「いつの」「どの」覚書に対して、「どの部分」を変更するのか、を明確にするように意識しましょう。
また、変更の効力発生の期日についても明確にしておきましょう。
その他、保管・管理については、原契約書と変更覚書、そして新たな覚書と、なるべく一元で順序良く管理できている方が望ましいです。
後々、取引の内容を確認したいという場合に、どれが最新の情報なのかがわかりにくい状態で管理されているのは適切とはいえません。
電子契約DX-Signであれば、書類の管理機能も充実しております。
フォルダごとに階層管理できますので、原契約書と変更覚書、更に変更した覚書、とまとめて個別にタイトルを付けたフォルダで管理しておくことができます。
紙の書類をインポートして一元化する機能も搭載しておりますので、書類の管理の電子化においても貢献できるクラウド型契約締結ソフトです。
書類管理においては、もちろん、電子帳簿保存法(電帳法)へも対応してございます。
詳しくは下記よりお問合せください。
覚書と収入印紙
課税文書に該当する書類へは収入印紙の貼付けが必要となります。こちらは印紙税法により課税文書の種類や必要な金額が定められております。課税文書に該当する20種類の書類においては国税庁のホームページからもご確認いただけます。
契約書の中で課税文書にあたるものやその条件などは以前にコラムでもご紹介しておりました。課税文書にあたるかどうかは、タイトルではなく、その取り引きの性質・内容です。
よって、契約書であっても覚書であっても、タイトルで課税と非課税が変わることはなく、取り引きの内容が課税文書にあたるものであれば、覚書にも収入印紙が必要となります。
覚書を作成する上での注意点
甲乙を取り違えない
原契約と照らしながら、当事者の甲乙を取り違えて記載することのないよう注意しましょう。
権利と義務の関係性がまったく逆になってしまう場合もありトラブルにもつながりかねません。
社内でも良く確認のうえ相手方へ提示するようにしましょう。
変更箇所と変更内容を明確にする
変更覚書であれば、その変更箇所と変更内容について具体的に明確に記載しましょう。
後から、「言った言わない」にならないよう、曖昧な表現は避けて、当事者間で合意した内容を正確に記載しましょう。
収入印紙を貼る場合は消印をする
覚書が課税文書にあたる場合には、収入印紙の貼付けが必要であることをご紹介いたしました。
収入印紙は課税文書に対する納税義務となります。この納税を証明する役割が消印です。
消印がされていない場合は正しく納税されたことにはなりませんので注意しましょう。
収入印紙を貼る、消印をする、という一連の対応で確認ください。
署名捺印・記名押印
覚書も契約書の一つの形態です。よってその法的効力を確かなものとするために、合意した当事者双方の署名捺印、記名押印は忘れないようにしましょう。
覚書だから、という事にはなりません。
なお、双方の署名捺印や記名押印を押すのは時間もかかりますし作業も増えます。
電子契約サービスであれば、クラウド上に覚書をアップロードしボタン操作のみで簡単に法的効力のある電子署名を施し、契約締結することができます。
電子契約サービスの導入もご検討いただければと思います。
まとめ
今回は「覚書」について解説いたしました。
覚書も契約書と同じく大切な書類です。その為、契約書同様に押印の手間や印紙代などが発生する場合もございます。
また、修正が必要な場合の覚書などは急いで締結完了させたい、という気持ちもあるかもしれません。
押印や印紙を不要にし、業務効率も向上させられる電子契約は、覚書の対応にも向いているサービスです。